「国守りて山河なし」
2025年8月6日に広島で行われた被爆80年の平和祈念式にて、広島県知事の湯崎英彦さんのスピーチで語られた言葉です。私の中で今年一番に心に響いた言葉でした。
広島県の公式ホームページに掲載されている、湯崎英彦広島県知事の平和祈念式あいさつ文より、一部を抜粋します。
「国破れて山河あり。かつては抑止が破られ国が荒廃しても、再建の礎は残っていました。 国守りて山河なし。もし核による抑止が、歴史が証明するようにいつか破られて核戦争になれば、人類も地球も再生不能な惨禍に見舞われます。概念としての国家は守るが、国土も国民も復興不能な結末が有りうる安全保障に、どんな意味あるのでしょう」
(全文はこちらを参照ください)
平和を維持するための弛まない努力、核兵器の是非を再考させられるとともに、日々の診療や日本の未来について連想が膨らみました。
私たち個人レベルでは、”国”は“思考”、”山河”は“身体・こころ”と捉えることができると思います。
“思考”と“身体・こころ”のバランスが取れている状態が理想ですね。すなわち、健康な身体を基盤に、喜怒哀楽を感じ、思考し、素直に動くことができている状態です。しかし、現実には日々やらねばならぬことがたくさんあり、“こうでなければ生活が成り立たない”という思考で頭が支配させることも多々あると思います。やらねばならぬことで睡眠時間を削ったり、感情を押し殺したりしても、ある程度なら心身のバランスは保たれるものですが、一線を超えれば、うつ状態になったり、自立神経のバランスを崩したりします。
診察室では、このバランスを整えるために、負荷がかかりすぎている環境を整えたり、過剰になっている“べき思考”を緩めたり、心身のサインに気づく練習をしたり、お薬の治療を行なったりしています。
令和7年を振り返ると、国の政策は以前にも増して、経済を回し好循環を作ること、より強い国になることに注力しているように思われます。国民の生活を守り、豊かになるためには、たしかにお金が必要であり、より効率的な働き方、企業経営が求められています。
しかし、精神医療の現場では、日々の生活に疲弊し心身のバランスを崩している方々が増えている実情があります。私が医療の立場からできることを尽くしても、なお社会変化のスピードが上がり続ければ、私たちの心身は壊れてしまうかもしれません。
「国守りて山河なし」
経済成長を求めて国のさまざまな制度が守られても、国民が不健康になってしまっては本末転倒です。もちろん、国家がなければ社会システムは乱れ、私たちの生活は壊れてしまいます。政治家や官僚、行政の方々の献身的な努力で私たちの生活が守られている事実があります。
果たして私たちはどのような選択をすれば、安全で健康的な生活が持続できるのでしょうか。悩ましいものです。
精神科医として一つ提案できることがあります。ご自身が持っている欲望を知り、限りある時間と体力の中で、大切にしたいこと、手放すことを明らかにしていくことです。このプロセスが心身の健康につながります。
年末年始、日々の生活から一歩離れ、心身の声に耳を傾けてゆっくり考える時間を作ってみてはいかがでしょうか。私も答えはわかりませんが、そうしてみようと思います。
今年一年、皆さん本当にお疲れ様でした。
自分に「ありがとう」の一言を送ってあげてください。 2026年が皆さんにとって、よい年になることをこころより願っています。


